- HPでAppleのデザインをパクると、不思議な力で商品・サービスが魔法のように売れるのでしょうか?
- 30代起業家が「HPをAppleみたいなデザインにしろ!」と奮闘する物語をお話します
「ホームページの制作を検討している」「ホームページはあるけれど集客できていない」という社長やフリーランス・小さなお店のオーナーであるあなたのために。今回は、「ホームページ制作でよくある典型的なケース」を物語風にお伝えします。
中小企業庁の統計データによると企業ホームページの9割が集客に失敗しています。あなたも安易にHP制作するなら必ず失敗します。すでにHPを持っているあなたは例外なく集客できていないでしょう。その失敗の一因が「Appleみたいなデザインにしろ病」です。
失敗しないために、あなたもホームページ制作に挑むオーナーの気持ちを追体験してみましょう。
起業家の現実
30代のおっさんが大学生に混じってバイト、トホホ生活
起業して5年。ボクの仕事はハイレゾ音源の録音ができるマイクや、高音質で音楽を楽しめるコードの開発・販売だ。岐阜の山奥にある実家で親と同居しながらビジネスをしている。
ビジネスをしていると言うとかっこいいが、主な収入源は近所の日帰り温泉でのバイトだ。起業して5年だが本業ではほとんど稼げていない。大学生やおばさんに混じって、ボクのような30代のおっさんがバイトしているのはかなり恥ずかしい。
ビジネスチャンス
ビジネスチャンスが来た! 大手サイトに掲載してもらえる!
先日、有名なオーディオサイトの編集部からウチの機材を無料で貸してくれないかという打診があった。「無料とは図々しい奴らだ」と、断ろうかと思ったが交換条件を出してみた。
編集部からは「謝礼はお支払いできないが、うちのサイトに御社のニュースリリースを掲載するというのはどうでしょう?告知に使ってください」との返答。
オーディオマニアなら知らぬ者はいない有名オーディオサイトに、ウチのニュースリリースが掲載されることに!!!!
信じられないくらいのアクセスがウチのHPに来るだろう。他のオーディオメディアやアーティストから問い合わせもくるだろう!!興奮しながら、「それでいい」とメッセージをし、無料で貸すことにした。
しかし、HPのデザインがダサい… Appleみたいなデザインにしよう! 格安・短期間で!
しかし困った。ウチのサイトはWordpressで自作した。無料テンプレートのダサいデザイン。たくさんの人が訪問するのに、イメージが悪すぎる。デザインをかっこよくしないと…。
ニュースリリース掲載は一週間後。サイトデザインをかっこよく…、例えば…、Appleみたいに…、そうだAppleのホームページみたいなデザインにしよう!
バイト先の日帰り温泉に、真っ昼間のありえない時間に毎日来る変な男がいたな。山本真一とかいう。たしかホームページを作っていると言っていた。
あいつに作らせてみるか!金も五万くらいで勉強してもらおう!時間も1週間もあれば十分だろ。
Appleのサイトはもちろんのこと、気になるかっこいいデザインのサイトをいくつもブックマークしておいた。やはり先進的なアニメーションを絶対に入れたい。
日帰り温泉でのバイト。いつもの時間に山本真一がやってきた。
「相談したいことがある…。」
そしてバイトが終わってから山本真一の家で打ち合わせをすることになった。
ホームページの打ち合わせ
企業HPの9割が失敗?
打ち合わせがはじまった。山本真一は言った。
実は、企業ホームページの9割が集客に失敗しているんです。多くの場合デザインだけにこだわって中身を考えません。(例1、例2、例3)
ん?何を言ってるんだ?ホームページで集客なんてできるわけないだろう。あんなもの、ただの会社紹介じゃないか。名刺代わりだろ? どこの会社だって集客効果なんて期待してない! それよりブランディングだ! デザイン・見栄えこそ最重要だ! だからデザインの話をしに来たというのに。
個人事業主の37.7%が1年で廃業? テンション下がるからやめてよそんな話…
また中小企業白書によると、個人事業主の37.7%が1年で廃業し、10年後まで生き残るのはたった1割のみだそうです。たかがHPと安易に考えていると自分で自分の首をしめることになりかねません。
何が1年で廃業だ、ボクはもう5年も営業してるんだ!まあ、実情はフリーターだけど…。
HPのデザインはどうでもいい?
「たとえば、HPのデザインが素晴らしくかっこいいからという理由で、買いたくもない商品をネットで何故か買ってしまったり、無料相談などを思わず利用してしまったことが一度でもありますか? ないですよね。デザインで魔法は起こせない。
「デザインに催眠・洗脳効果はない。あたはは自分の消費・サービスを顧客に伝える必要があり、考えることから逃げていけない?」考えてみるとたしかにそうかもしれない。ボクの考えを否定して、洗脳でもしようとしているのではないか?
山本「顧客は問題解決の方法やコスパの良いサービスを求めています。あなたの商品やサービス自体のデザインであれば重要でしょう。しかし見込み客はあなたのホームページのデザインに金を払うわけではない。HPのデザインなんかは極論を言えばどうでもいいんです。検討要素ではありません。セールスのための文章、どうやって問題解決をしてくれるのか、信頼できるのか、料金やコスパは?そういった情報こそ重要です。」
こいつはHP屋の分際でデザインはどうでもいいという。お前は何の仕事をしているんだ? HPをキレイなデザインにすることがお前の仕事だろう。
ターゲットは誰でどんなアクションを取って欲しいか?
ターゲットと目的によってHPの戦略を最適にする必要があります。
山本「それで、あなたのサイトでは音楽機材をエンドユーザーに販売したいのですか? あるいは音楽家相手に録音の仕事をとってきたいのでしょうか? ターゲットと目的によってHPの戦略を最適にする必要があります。」
エンドユーザーへの機材販売か、録音の仕事を音楽家から取ってくるかでHPの構成を変えないといけないと言う。なんて面倒くさいやつなんだ。ボクがかっこいいと思うデザインを黙ってつくればいいのに!
ニュースリリースを出した所でアクセスなんてない?
山本「ニュースリリースで配信する原稿は、『あなたの機材で録音した”音楽家の音源が発売される”』という内容。一度冷静になって良く考えていただきたいのは、その内容でHPへのアクセスが増えるのでしょうか?」
山本「アーティストのファンがiTunesで音源を買うかもしれない。例えば『乃木坂46が新曲をハイレゾ音源で出します』となっても、エンドユーザーはどんな機材で誰が録音したか? ましてや自分も同じ録音機材がほしいなんて思わないですよね? この内容では、あなたのHPへのアクセスも増えなければ機材の購入もない。なぜ超特急でHPのデザインをAppleみたいにする必要があるでしょうか?」
ただ浮かれていただけなんだろうか…。たしかに、ウチのHPへの訪問なんて来ないかもしれない。正論を言われると腹が立つ…!うるさいうるさい!
よく考えるとおかしなことがたくさん
そもそも、なぜ機材の説明ページが無いのですか? 料金は? どんな性能なんです?
山本「たとえば、エンドユーザーはどんな検索キーワードでその商品を検索しますか? このキャッチコピー『悠久のトキを超えるコトダマ、ファンタスティック・ハイレゾ』これはどんな意味なんですか?一見かっこいいけど、何も言っていないキャッチコピーって良くありますよね。」
かっこよさそうな雰囲気だから、深い意味なんてない。こいつは、なぜデザインと無関係の質問をするのだろう? ボクのサイトがエンドユーザーには意味のわからないサイトになっていると言いたいのだろうか?
デザインが課題なのではなく、アクセスがないことが最大の課題?
山本「そもそも現状でHPへの問い合わせ『購入したいとか』『録音作業を依頼したい』などはゼロだと思います。なぜなら、あなたのサイトはそもそもアクセスが無い。誰からも見られていないということ。一般的にHPへのアクセスの0.5%ほどが問い合わせなどのアクションとなります。アクセスが無いのでアクションもない。」
山本「人っ子一人いない砂漠の中にポツンとお店を開いてもお客さんは誰も来ませんよね?人がいないんですから。さらに、誰もいない砂漠のお店をかっこよくリフォームしてApple Storeみたいにおしゃれにしてもやはりお客さんは来ません。ビジネスにならない課題は店舗のデザインじゃなく、人間が存在しないという立地ですから。トンチンカンな施策をしても無意味です。」
山本「やるべきことはデザインを安易にAppleからパクるのではなく、アクセスを増やすためにハイレゾ音源やあなたの機材の素晴らしさ、あるいは、音楽家向けに録音技術の情報発信などをすべきでしょう。」
HPを活用すれば月10件のホットな新規顧客獲得は難しくない
山本「逆に言えばHPやブログで上手に情報発信をすれば月に2000アクセスほどならすぐに稼げ、そうなると反応率で0.5%なら月10件前後の引き合い獲得は難しくはないんです。こんな田舎から毎月東京へ営業に出かけているそうですが、それをしなくてよくなる。」
そうボクは頻繁に東京へ行く。営業周りだ。費用を抑えるために夜行バスで。新幹線で往復二万弱かかるところを、平日の夜行バスなら往復6000円くらいだ。夜行バスの狭い席に座っていると身体中がバキバキになるほど痛い。本業で利益が出ていないので新幹線は使えないのだ。しかし営業とは脚で稼ぐもの、HPで営業? バカを言うな。楽をしていてはいつまでたっても成功できない。
HPデザインをAppleみたいに変えても無駄? プロジェクトが破綻する?
山本「今のHPは誰にどんなアクションを期待しているのかよくわかりません。このHPをキレイなデザインにすることもできなくはないでしょうが、お金だけかかって集客効果はないでしょう。例えば、パワーポイントの営業資料の装飾がよくなっても、必要な情報が書いていなければ意味がないでしょう。事例も料金もスケジュールも掲載していないなら稟議に通る事もない。」
山本「しかも1週間という短期間です。要件は『Appleみたいなかっこいいサイトにしたい』だけですとプロジェクトが破綻する可能性も非常に高い。「私がかっこいいと思うデザイン」と「あなたがかっこいいと思うデザイン」さらに「エンドユーザーがかっこいいと思うデザイン」それぞれ全く違います。主観でしかないですから。無理矢理作ったとして『こんなのボクのイメージするAppleじゃない!』でプロジェクトが破綻して時間切れ。ニュースリリースまでに間に合う満足のいくデザインはできないでしょう。」
ボクは山本真一の話の途中で「帰る!」と言って部屋を出た。ムカムカした。
バラ色の未来
新HPが完成、バラ色の未来がやってきた!
新HPはなんとか間に合った。「ニュースリリース公開から大きく風向きが変わるはずだ!」ネットの集客も強化するためにFacebookページとtwitterアカウントを作成した。
これで、バイトも卒業だ!!
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1年後…
ーーあれから1年がたった。
結局、ニュースリリースが公開しても、山本真一が言うようにアクセスも増えなければ仕事につながる事もなかった。「無料で貸したウチの会社の機材で録音した音楽家のCDが発売される」という内容なのだから当然だろう。ウチのHPに来る必然性が冷静に考えればなかった。音源は売れたかもしれないがボクにメリットはなかったのだ。
大手オーディオメディアに掲載されることで大反響があるのではと期待していたSNS。反応も全くなく、twitterのフォロワーは1年運用して60人しかいない。業界の人間やオーディオマニアと積極的に絡むなら意味もあるのかもしれないが、誰に向かってというわけでも無く日々のことやうまかったラーメンの写真なんかを投稿してもボクの見込み客と接触できるわけがなかった。
無料でうちの機材を使われただけ。ビジネスチャンスなんかではなかった…。
新HPは波打つ海の動画が画面いっぱいにエンドレスに流れる奇抜なデザインで気にいっている。とはいえ、アクセスもないので反響もない。「人っ子一人いない砂漠にお店を開くようなもの」と山本真一が言っていたとおりだった。山本真一が言うようにアクセスを増やすことが今必要な施策なのだろうか?。 いや、しかし他の業者に依頼してデザインリニューアルをするべきこ? 今度はもっとかっこよく、カメラマンもよんでアーティスト写真のように決まったオレが未来について語るインタビュー形式のかっこいいHP。
ウチの親が「お前のHPを見ても何の仕事をしているか全くわからない」と言っていた。HPの情報が理解しがたいのか、Appleみたいなデザインでないために分からないのか、理由はなんだろう…? 怖くてきけなかった…。
「新HPがAppleみたいなデザインか?」と言われるとAppleの要素は全くない。山本真一が紹介した簡単にHPが作れるツールの無料版を利用している。安くていい。
しかし、無料版は広告が出てくる。広告が出ていると、まともな会社ではないというイメージがあるだろう。ボクの心は都合の悪い事実をショートカットして、気にしなかった。ブランディング的に失敗だとしても、ボクが気に入っているので良いのだ。「え? Appleみたいなデザインにはこだわるのに、広告が出ているのは気にしないんだ?」というツッコミが聞こえた気がしたが外野の野次は無視する。
全ては終わったことだ、考えても仕方がない。もう少しで三十半ば。なのに今日もバイト。時給800円の仕事がボクを待っている。この生き地獄から抜け出せる日はくるのか?
終わり
まとめ
この物語の主人公があなただったらどう行動しましたか?あなたも同じような失敗をしないでしょうか。「ははは、こんなバカなことしないよ」と今は冷静に考えられたとしても、HPを作るとなるとなぜか顧客視点を無くしてしまいます。
また、課題と解決法がちぐはぐというケースも多いです。このお話のように「ニュースリリースに掲載されるから、急いでAppleのようなデザインにしないといけない!(なぜデザイン変更?しかもApple風にする必要性は??)」や「HPのアクセスが全くないので、高いお金と半年ほどの時間をかけてデザインをフルリニューアルする(デザインを変えてもアクセス増えないでしょ!?)」というような課題と解決法が完全にずれているケースはたくさんあります。あなたも同じ失敗をしないように気をつけましょう。
- 企業ホームページの9割が集客に失敗している、中身を考えずデザインだけこだわって自滅するパターンが多い。
- HPのデザインがかっこよいだけでは、見込み客は、あなたのサービスや商品を買ってくれない。
- 見込み客は問題解決の方法やコスパの良いサービスを求めている。HPにのせるべきなのは一見かっこよさげだが何も言っていない無意味なデザインやキャッチコピーではなく、顧客の悩みをどう解決するかという方法、料金やコスパやリアルな口コミ。
- 誰がターゲットで、何をしてほしいのかでHPの構成やデザインなどを戦略的に変更する必要がある。
- 見込み客はどんな検索キーワードでその商品を探すかを逆算して戦略を立てる。
- TVのように過剰な演出が求められているわけではない。情報を押し付けるのではなく、見込み客の知りたい情報に答えるという思考で作成する。
- HPやブログで月に2000アクセスほどならすぐに稼げ、反応率で0.5%なら月10件前後の引き合い獲得は難しくはない。
- かっこいいデザインにしたいなら無料でHPを作れるツールがあるので、それで作って、デザインは気に入った派手なテンプレートを選べばいい。安いし早くできる。
最初はツールで自分で作り、わかりやすいサイトが完成したら、デザインだけかっこよくするということも可能です。最初のホームページはHP屋さんに頼むのではなく自作するのがオススメ。自作して「なるほどこういうもんか」と理解してから、「もっと文章をわかりやすくしたい」「見込み客の検索キーワードに応じてコンテンツを作り込みしたい」「デザインをかっこよくしたい」という意図でHP屋さんに依頼すると失敗も少なくなります。